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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)228号 判決 2000年12月26日

平成一一年(ワ)第二二八号 特許権差止請求権不存在確認等請求事件(甲事件)

同年(ワ)第六六〇五号 特許権侵害差止等請求事件(乙事件)

甲事件原告・乙事件被告

エフテック株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

藤田健

右補佐人弁理士

植木久一

乙事件被告

日星産業株式会社

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

野田宗典

嶋田雅弘

右補佐人弁理士

宮崎嘉夫

甲事件被告・乙事件原告

【C】

乙事件原告

クリーン・テクノロジー株式会社

右代表者代表取締役

【C】

右両名訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

村田秀人

内藤欣也

山田治彦

右補佐人弁理士

澤喜代治

主文

一  甲事件被告・乙事件原告【C】は、同人自ら又は乙事件原告クリーン・テクノロジー株式会社の役員あるいは従業員をして、文書又は口頭で、甲事件原告・乙事件被告エフテック株式会社の製造する別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵除去装置が登録第二八五〇一六九号及び登録第二八一九二五一号の各特許権を侵害し、又は侵害するおそれがある旨告知したり流布したりしてはならない。

二  甲事件被告・乙事件原告【C】及び乙事件原告クリーン・テクノロジー株式会社の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲・乙事件を通じて、甲事件被告・乙事件原告【C】及び乙事件原告クリーン・テクノロジー株式会社の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

主文第一項同旨

二  乙事件

1  甲事件原告・乙事件被告エフテック株式会社(以下「被告エフテック」という。)は、別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理装置を製造し、販売し、貸し渡し、販売若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。

2  乙事件被告日星産業株式会社(以下「被告日星産業」という。)は、別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理装置を販売し、貸し渡し、販売若しくは貸渡しの申出をし、又は、販売若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。

3  被告エフテックは、第1項記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理装置を廃棄せよ。

4  被告日星産業は、第2項記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理装置を廃棄せよ。

5  右被告両名は、連帯して、乙事件原告クリーン・テクノロジー株式会社(以下「原告クリーン・テクノロジー」という。)に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

〔甲事件〕

甲事件は、粉塵除去装置の製造、販売業者である被告エフテックが、「粉塵除去方法とその装置」に関する登録第二八五〇一六九号の特許権、並びに「気液分離方法、気液分離装置、粉塵除去方法及びその装置」に関する登録第二八一九二五一号の特許権の各特許権者である甲事件被告・乙事件原告【C】(以下「原告【C】」という。)に対し、原告【C】又は同原告が代表取締役を務める原告クリーン・テクノロジーの従業員が、被告エフテックの代理店又はユーザーに、右粉塵除去装置の製造、販売行為は右各特許権を侵害している等の事実を告知、流布することは、不正競争防止法二条一項一三号の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知、流布に当たるとして、その禁止を求めたものである。

〔乙事件〕

乙事件は、原告【C】及び右各特許権についての独占的通常実施権者である原告クリーン・テクノロジーが、被告エフテック及び右粉塵除去装置の販売業者である被告日星産業に対し、右粉塵除去装置の製造、販売等は、右登録第二八五〇一六九号及び登録第二八一九二五一号の各特許権を侵害するものであるとして、その製造、販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めたものである。

一  争いのない事実等(証拠の掲記がないものは、当事者間に争いがない。)

1 当事者

被告エフテックは、半導体用排ガス処理装置の製造、販売及びメンテナンス業務等を目的とする株式会社、被告日星産業は、化学工業用機器(計量器を含む)、浄化装置、洗浄機器等の売買及び輸出入等を目的とする株式会社、原告クリーン・テクノロジーは、半導体製造装置、大気汚染防止装置等の製造及び販売等を目的とする株式会社であり、原告【C】は、原告クリーン・テクノロジーの代表取締役である。

2 原告【C】は、次の各特許権を有している(以下、(一)記載の特許権を「本件第一特許権」、その発明(請求項1、2)を「本件第一発明」、(二)記載の特許権を「本件第二特許権」、その発明(請求項9)を「本件第二発明」という。)。

(一)(1) 発明の名称 粉塵除去方法とその装置

(2) 特許番号 第二八五〇一六九号

(3) 出願日 平成三年九月九日(特願平三―三〇七二八六号)

(4) 出願公開日 平成六年四月二六日(特開平六―一一四二二五号)

(5) 手続補正日 平成一〇年七月二八日

(6) 設定登録日 平成一〇年一一月一三日

(7) 特許請求の範囲は、別添の本件第一特許権に係る特許公報の該当欄記載のとおりである。

(8) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。

ア 請求項1

A 含塵気流中から粉塵をろ過捕集する為の固定補強あるいは強化されたフィルター1と、

B 可動ブラシからなるフィルター2とで構成されている粉塵除去装置であって、

C この粉塵除去装置は、

a 可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗取りすると共に

b その先端部分が前記フィルター1に摺接することによって当該フィルター1に捕集された粉塵を取り除く

D ことを特徴とする粉塵除去装置。

イ 請求項2

A フィルター1が円筒状で、

B 固且つフィルター2が回転ブラシで形成されてなり、

C この回転ブラシからなるフィルター2の先端部分が前記フィルター1に摺接しながら回転するように構成されてなる

D 請求項1に記載の粉塵除去装置。

(二)(1) 発明の名称 気液分離方法、気液分離装置、粉塵除去方法及びその装置

(2) 特許番号 第二八一九二五一号

(3) 出願日 平成六年一二月二八日(特願平六―三三九八一三号)

(4) 出願公開日 平成八年七月一六日(特開平八―一八二九一〇号)

(5) 設定登録日 平成一〇年八月二八日

(6) 特許請求の範囲は、別添の本件第二特許権に係る特許公報の該当欄記載のとおりである。

(7) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。

(請求項9)

Aa 粉塵発生源から導入した粉塵を含有する気体中の油分及び水分を分離除去する液分離装置で、

b 前記液分離装置が、前記気体を貫流させる円盤状或いは螺旋状に形成された液分離用回転ブラシと、

c この回転ブラシを駆動する駆動装置と

d この液分離用回転ブラシの周囲を覆う内周面及び内周面に沿って流下した油分及び水分を貯留する底部を有する液分離室とを備える

B 該分離装置で油分及び水分を分離除去された前記気体中の粉塵をフィルタでろ過して除去する集塵装置とを備える

C ことを特徴とする粉塵除去装置。

3 本件各装置は、本件第一発明の請求項1の構成要件A、Cb、Dを充足する。

4 被告エフテックは、別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵除去装置(以下それぞれ「イ号装置」、「ロ号装置」といい、イ号装置及びロ号装置を合わせて「本件各装置」という。)を製造、販売し、被告日星産業は、被告エフテックの販売代理店として、本件各装置を販売している。

5 本件紛争の経緯

(一) 原告【C】及び原告クリーン・テクノロジーの従業員は、平成一〇年一月から同年八月にかけて、被告エフテック及び被告日星産業の取引先に赴き、被告らの本件各装置の製造、販売行為は、本件第一特許権及び本件第二特許権を侵害するとして、訴訟を提起する予定であるなどと述べた(以下「本件告知」という。)(甲四、五)。

(二) また、原告【C】は、被告エフテックに対し平成一〇年一一月二四日付及び同年一二月二一日付内容証明郵便にて、被告日星産業に対し平成一〇年一一月二四日付内容証明郵便にて、本件各装置を製造、販売することは本件第一特許権及び本件第二特許権を侵害することになることを理由に、本件各装置を製造、販売しない旨の確約書の送付、既に製造、販売した製品の総数量及び価額の通知、これら製品の回収及び製造設備の廃棄を求めた(甲六、七)。

6 原告クリーン・テクノロジーは、原告【C】から、本件第一特許権及び本件第二特許権について、独占的通常実施権の設定を受けている(弁論の全趣旨)。

二  争点

1 本件各装置は、本件第一発明の技術的範囲に属するか(甲・乙事件共通)。

(一) 本件各装置は、請求項1の構成要件Bの「可動ブラシからなるフィルター2」及び同Caの「可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗取りする」との構成を備えているか。

(二) 本件各装置は請求項1の構成要件Ca中の「共に」を充足するか。

2 本件各装置は、本件第二発明の技術的範囲に属するか(甲・乙事件共通)。

3 本件告知は、不正競争防止法二条一項一三号の不正競争行為に当たるか(甲事件)。

4 損害の発生及び額(乙事件)

三  争点に関する当事者の主張

1 本件各装置の構成について

〔原告らの主張〕

本件各装置の構成は、別紙原告主張イ号構成目録及び原告主張ロ号構成目録記載のとおりである。

〔被告らの主張〕

後記各争点に関する被告らの主張のとおり、原告ら主張の本件各装置の構成を争う。

2 争点1(一)について

〔原告【C】らの主張〕

(一)  本件第一発明の請求項1の構成要件B、Caのフィルター2は、含塵気流中の粉塵を粗取りすることが要件ではあるが、本件第一発明の明細書には「可動(又は回転)ブラシ」の表現しか使用されておらず、植毛状態を限定することについての記載がないことから、被告エフテックが主張するように、回転軸の上下方向にわたり密に植毛されていることは、要件となっていない。

(二)  本件各装置のブラシ5a、5bは、含塵気流を流入させて実験した結果、ブラシの植毛間に多量の粉体が捕集された(乙二、三)ことも明らかなように、粉塵を粗取りする機能を有するから、右構成要件の「可動ブラシからなる含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター」に該当する。

(三)  被告エフテックは、フィルターの定義を文献から引用し、「二つの空間を隔てる隔壁あるいは隔膜」と定義することにより、本件各装置のブラシ5a、5bがその機能を有していないから「フィルター」に該当しないと主張するが、かかる議論は明細書から離れたものである。本件第一発明の明細書、手続補正書及び各添付の図面からすれば、含塵気流中の粉塵を粗取りする可動ブラシからなるフィルターの意味内容は自明であり、フィルターの定義は問題にはならない。

また、被告エフテックは、特開昭六〇―一三二六一七号公報において、粉塵掻き落し用ブラシが粉塵の粗取りをすることが添付図面上容易に理解できるということを前提として、本件第一発明の本質的部分は隔壁としての機能(フィルター)を可動ブラシに持たせたことにあると主張するが、同公報に何ら記載のない粉塵の粗取り機能を公知技術の範囲に取り込むべきではなく、同被告の右主張は前提を欠くものである。

(四)  被告日星産業は、本件各装置が、フィルター装置において可動ブラシを用いてフィルターに付着したダスト等を掻き取る公知技術の延長線上にあるものである旨主張するが、右主張は、本件各装置がフィルターとしての粗取り機能を有しないという誤った認識に基づく主張である。

〔被告エフテックの主張〕

(一)  本件第一発明の構成要件Bの可動ブラシからなる「フィルター」とは、二つの空間を隔てる隔壁あるいは隔膜であり、気体あるいは液体が圧力差によってこの隔壁を通過する際に、異相を分離するものであるので、隔壁あるいは隔膜の両側の圧力差によって吸引される気体あるいは液体は、強制的にこの隔壁あるいは隔膜であるフィルターを通過させられることになる。

そして、本件第一発明の公開特許公報(甲一)及び手続補正書(甲二)の図面には、回転軸の上下方向にわたり密に植毛された可動ブラシが示され、右可動ブラシは、可動ブラシの上方の空間と可動ブラシの外周方向の空間(この外周方向の空間は目に見えるほどの広い空間ではないが、円筒状フィルター2の内面との間に空間の存在が想定されている。)の二つの空間を隔て、フィルターの機能を有するものであるから、構成要件Bにいう「可動ブラシからなるフィルター2」とは、右のような回転軸の上下方向にわたり密に植毛された可動ブラシを意味すると解すべきである。

(二)  本件第一発明出願時の公知技術として、特開昭六〇―一三二六一七号公報(甲一九)に示された、粉塵掻き落し用ブラシがフィルター表面に堆積した粉塵を掻き落とす機能を有する粉塵除去装置があり、同公報には、粉塵掻き落し用の可動ブラシが粉塵の粗取りをすることについて記述がないものの、第2図を見れば、粉塵が右可動ブラシに衝突して払い落とされ、可動ブラシが含塵気流中の粉塵を粗取りする機能を有することが容易に理解できる。

右公知技術の可動ブラシは、密に植毛されている訳ではなく隔壁又は隔膜として二つの空間を隔てるものではないので、フィルターとはいえないが、右公知技術には、可動ブラシをフィルターとして用いることを除き、本件第一発明のすべての要件が開示されている。

したがって、右公知技術と比較すれば、本件第一発明は、可動ブラシに隔壁又は隔膜として二つの空間を隔てるフィルターとしての機能を持たせた点にその本質的部分がある。

(三)  本件各装置のブラシ5a、5bは、回転軸4aの平面視において二本の回転ブラシ5a、5bを対称位置に上端から下端に至るまで各々一八〇度ねじられた植毛予定線4m、4nに沿って植設配置される構造になっており、回転軸の上下方向にわたり密に植毛されておらず、隔壁あるいは隔膜の役割を果たしていないから、フィルターではない。

そして、このような構造のため、上方から流入された含塵気流は強制的に植毛間を通過させられることなく、抵抗なしに円筒状フィルター7内の広い空間全体を満たすことになり、円筒状フィルターの全面でろ過できるものであって、回転ブラシ体4は、単に円筒状フィルター7に付着した粉塵を掻き取る機能を有するにすぎず、含塵気流から粉塵を粗取りする機能は有していない。

〔被告日星産業の主張〕

(一)  本件第一発明は、明細書の特許請求の範囲の記載からみて、含塵気流中から粉塵をろ過捕集するための固定補強あるいは強化されたフィルター1と、可動ブラシからなるフィルター2を含むことが前提であり、可動ブラシからなるフィルター2は、「含塵気流中の粉塵を粗取りする」ものであることが必要である。しかるに、本件各装置の回転ブラシ体4は、植毛部分が一八〇度ひねられた構造のものであり、含塵気流の流れに対し空間部分が多く、フィルターとしての機能を発揮するための密な植毛部分を有していないから、本件各装置は「可動ブラシからなる含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター」を備えていない。

(二)  特開昭六〇―一三二六一七号公報(丙二)、実開昭六一―二〇四六一八号公報のマイクロフィルム(丙三)、実開昭六二―一九四四一六号公報のマイクロフィルム(丙四)、特開昭六二―一四〇六一七号公報(丙五)、実開平二―六一四一三号公報のマイクロフィルム(丙六)には、いずれもフィルター装置において、可動ブラシを用いてフィルターに付着したダスト等を掻き取る技術が記載され、同技術は周知であったが、右各技術における可動ブラシは、本件第一発明のようにフィルターを兼ねるものではない。

したがって、密な植毛部分を有せずフィルターとしての機能を備えない回転ブラシ体4からなる本件各装置は、右従来技術の延長線上にあるものであって、本件第一発明の技術的範囲に属するものではない。

3 争点1(二)について

〔原告らの主張〕

(一)  本件第一発明の請求項1の構成要件Caの「共に」とは、可動ブラシからなるフィルター2が、粉塵気流中の粉塵を粗取りする機能を有するとともに、その先端部分がフィルター1に摺接することによってフィルター1に捕集された粉塵を取り除くという機能をも有するという意味であり、「同時に」という時間的な意味ではない。

本件第一発明の明細書中に、粉塵の粗取り機能と、フィルター1に捕集された粉塵の除去機能とを同時に実施する趣旨の記載があるとしても、それは実施例の一つとしての記載であって、右二つの機能を同時に行う装置に限定されるものではない。

(二)  したがって、仮に本件各装置が、ブラシ5a、5bによる粉塵の粗取り機能と、フィルター1に捕集された粉塵の除去機能とを同時に実施できない機構になっているとしても、ブラシ5a、5bが右二つの機能を有する以上、右構成要件の「共に」との構成を備えている。

〔被告らの主張〕

(一)  本件第一発明の明細書には、「粉塵の粗取りとフィルター1に捕捉された粉塵の取り除きとは、可動ブラシからなるフィルター2によって同時に行われる」【〇〇二二】等の可動ブラシによる粉塵の粗取りと、フィルター1に捕捉された粉塵の取り除きとを時間的に同時に行うことを意味する記載があり、早期審査に関する事情説明書においても、可動ブラシによる前記二つの機能が時間的に同時に行われることを明確にする説明が追加、補正されたから、請求項1の構成要件Caの「共に」は「同時に」の意と解すべきである。

(二)  本件各装置は、ブラシ5a、5bを停止した状態で含塵気流を被告装置内に流入して円筒状フィルター7で除塵し、円筒状フィルター7の内面に粉塵が堆積されると、含塵気流の流入を停止して、モーターによりブラシ5a、5bを回転させて、円筒状フィルター7の内面の粉塵を掻き落とすものであるから、可動ブラシによる粉塵の粗取りと、フィルター1に捕捉された粉塵の取り除きとを「共に」(すなわち、時間的に同時に)行うとの構成を備えていない。

4 争点2について

〔原告らの主張〕

(一)  本件各装置の構成は、本件第二発明の構成要件をすべて充足する。

(二)  被告エフテックは、本件各装置は液体成分が実質的に存在しない環境下で使用されることを前提とする粉塵除去装置であると主張する。しかし、本件各装置は半導体の製造過程で用いられるものであるところ、シランガスを用いた半導体の製造工程では、酸化ケイ素と水が発生するから、本件各装置をその排ガス処理工程に用いた場合には、「油分や水分のような液体成分が実質的に存在する環境下」で用いることになる。

(三)  本件各装置のブラシ5a、5bと同様の構造を有する回転ブラシを用いて実験した結果、ガス中の水分濃度は、気流入口より気流出口の方が平均して一三パーセント減少しており(乙五)、また、油分ミストを混入させた含塵気流を流入させたところ、油分が捕集されたことが確認された(乙八)から、本件各装置において水分や油分が除去されることは明らかである。

したがって、本件各装置のブラシ5a、5bは、本件第二発明の構成要件の「液分離用回転ブラシ」に当たり、本件各装置は「粉塵を含有する気体中の油分及び水分を分離除去する」液分離装置を備えている。

〔被告エフテックの主張〕

(一)  本件各装置は、固体である粉塵を除去する装置であって、液体である油分や水分を除去する装置ではないから、本件第二発明の構成要件中、「気体中の油分及び水分を分離除去する液体分離装置」を備えず、また、本件各装置のブラシはひねりはあるものの螺旋状といえるものではないから、「円盤状或いは螺旋状に形成された液分離用回転ブラシ」を備えていない。

(二)  本件第二発明は、油分や水分の液体成分を含む気体について、従来の粉塵除去装置を用いると、液体成分が粉塵と共にベッタリ付着してフィルターの目詰まりの原因となっていたという問題点を解決することを目的とするものであり、気流中から液体成分を捕捉し分離するための液分離用回転ブラシと、この回転ブラシの周囲を覆う内周面及びこの内周面に沿って流下した液体成分を貯留する底部を有する液分離室等を備える液分離装置によって、液体成分を除去する粉塵除去装置に関するものである。

一方、本件各装置は、あくまでも粉塵等の固体成分の除去を目的とする装置であり、液体成分が実質的に存在しない環境下で使用されることを前提とする粉塵除去装置であるから、本件第二発明に必須の液分離用回転ブラシを備えていない。

したがって、本件各装置が、本件第二発明の技術的範囲に属さないことは明らかである。

〔被告日星産業の主張〕

本件第二発明は、液分離装置と集塵装置とを備える粉塵除去装置を前提とし、右液分離装置は、液分離用回転ブラシ、同回転ブラシの駆動装置、液分離室とからなるものであるが、本件各装置は、液体成分を含まない含塵気流を処理する粉塵除去装置であって、液分離装置を備えていない。

したがって、本件各装置は、本件第二発明の技術的範囲に属するものではない。

5 争点3について

〔被告エフテックの主張〕

前記2ないし4の被告エフテックの主張のとおり、本件各装置は本件第一発明及び本件第二発明の技術的範囲に属さないから、本件告知は、不正競争防止法二条一項一三号に該当する。

〔原告【C】の主張〕

争う。

6 争点4について

〔原告クリーン・テクノロジーの主張〕

(一)  被告エフテックは、乙事件訴状送達前の六か月間に、少なくとも本件各装置一〇〇個を一個当たり約二〇万円で製造、販売、貸渡し等を行い、被告日星産業は、販売代理店として、右販売、貸渡し等を行った。被告エフテックの得た利益は右売上合計約二〇〇〇万円の三五パーセントの七〇〇万円、被告日星産業の得た利益は、同売上合計の一五パーセントの三〇〇万円をそれぞれ下らない。

(二)  よって、被告らの行為により原告クリーン・テクノロジーが被った損害は、特許法一〇二条二項に基づき、右利益額合計一〇〇〇万円となる。

〔被告らの主張〕

原告クリーン・テクノロジーの右主張事実は争う。

第四争点に対する判断

一  争点1(一)について

1(一)  本件第一発明の明細書の【発明の詳細な説明】の欄には、次の記載がある(乙一)。

(1) 【産業上の利用分野】の項

「本発明は、…従来の粉塵ろ過装置では不可能であった微粉塵(直径〇・三μm以下)ろ過を長期に渡って安定に行うことを目的とした粉塵除去方法とその装置に関する。」(3欄三一ないし三五行)

(2) 【従来の技術】の項

「従来の微粉塵用フィルター(ヘパフィルター等)は、表面積を大きく取り、長期にわたって目詰まりを起こさない構造とする為、ギャザー構造等種々の工夫をこらした再生不可能な使い捨てフィルターが一般的であった。又、より長期にわたって使用できるように逆圧クリーニング等の工夫が凝らされた再生機能付きフィルターも使用されていた。」(3欄三七ないし四四行)

(3) 【発明が解決しようとする問題点】の項

「本発明は、これら従来からの粉塵ろ過装置では不可能であった微粉塵(直径〇・三μm以下)のろ過を、安全なクリーニング機構を設けることによって長期にわたって安定に操業できると共に、構造が単純で製造コストが低く、表面積を最大限に有効に活用できるフィルター構造を使用した粉塵除去装置及び方法を提供することを目的とするものである。」(4欄一一ないし一七行)

(4) 【問題を解決するための手段】の項

「本発明に係る粉塵除去装置は、含塵気流中から粉塵をろ過捕集する為の固定補強あるいは強化されたフィルターと、可動ブラシからなるフィルターとで構成されている粉塵除去装置であって、この粉塵除去装置は、可動ブラシからなるフィルターが含塵気流中の粉塵を粗取りすると共にその先端部分が前記フィルターに捕集された粉塵を取り除くことを特徴とする。」(4欄二二ないし二九行)、

「又、本発明に係る粉塵除去装置においては、フィルターは、微粉塵をろ過できるものであればその形状は特に限定されず、たとえず、円筒状、中空の円錐状、平面状等の単純な形状でもよいのである。」(4欄三五ないし三八行)、

「即ち、本発明に係る粉塵除去装置においては、フィルターが円筒状で、且つフィルターが回転ブラシで形成されてなり、この回転ブラシからなるフィルターの先端部分が前記フィルターに摺接しながら回転するように構成されてなるものでも良く、又はフィルターが中空の円錐状で、且つフィルターが回転ブラシで形成されてなり、この回転ブラシからなるフィルターの先端部分が前記フィルターに摺接しながら回転するように構成されてなるものでも良く、或いはフィルターが平面状であり、且つフィルターが回転ブラシで形成されてなり、この回転ブラシからなるフィルターの先端部分が前記フィルターに摺接しながら回転するように構成されてなるものでも良いのである。」(4欄三九行ないし5欄一行)、

「又、本発明に係る粉塵除去装置においては、フィルターが回転するのに代えて、フィルターが可動ブラシからなり、この可動ブラシからなるフィルターがフィルターに摺接しながら直線運動を行うよう構成されてなるものでも良いのである。」(5欄二ないし六行)、

「更に、本発明に係る粉塵除去装置においては、可動ブラシからなるフィルターは、含塵気流中の粉塵を粗取りすると共にその先端部分がフィルターに摺接することによって前記フィルターに捕集された粉塵を取り除くことができるものであれば特に限定されず、回転ブラシあるいは上下左右方向に往復する直線運動を行うものでもよいのである。」(5欄七ないし一三行)

(5) また、実施例を示す概略図【図1】には、可動ブラシからなるフィルター2として、回転軸の上下方向にわたり密に植毛されている回転ブラシが示されている。

(二)  右明細書の記載には、「可動ブラシからなるフィルター2」の構造について、実施例の一つとして概略図【図1】に示されるのみで、構成要件の「含塵気流中の粉塵を粗取りする」との機能的な記載を具体化する記載は見当たらない。

2(一)  次に、出願前の公知技術について検討する。

(1) 特開昭六三―一三二六一七号公開特許公報には、特許請求の範囲を「金網状フィルター、粉塵掻き落し用ブラシ、粉塵堆積部より成り、該フィルター表面に堆積した粉塵を連続的または間欠的に掻き落し、該落下粉塵が堆積部に堆積する構造を特徴とするフィルター装置。」とし、その実施例を示す第2図には、気流入口から気流出口に向かう途中に設置された平面状のフィルターと、そのフィルターの気流入口側に、回転軸に対し放射状に設置された回動可能なブラシが、その先端がフィルターに接触してフィルターに付着した粉塵を掻き落すことができる位置に設置された装置が示されており、同図に示された気体の流路及び右ブラシの位置関係は、流入した気体の少なくとも半分程度が、右ブラシの毛間を通過し、その後フィルターに導かれるようなものになっている(甲一九、丙二)。

(2) 特開昭五三―三〇一九七号公開特許公報には、防塵マスクにおけるフィルターの粉塵除去に関して、フィルターの外面(空気流入側)と接するブラシを作動杆により回動ないし摺動可能に設置して、作動杆を回転ないし摺動させることにより、フィルターの粉塵を除去する技術が示されている(甲一四)。

(3) その他、実開昭六一―二〇四六一八号公開実用新案公報のマイクロフィルム(丙三)、実開昭六二―一九四四一六号公開実用新案公報のマイクロフィルム(丙四)、特開昭六二―一四〇六一七号公開特許公報、実開平二―六一四一三号公開実用新案公報のマイクロフィルム(丙六)には、いずれもフィルター装置において、可動ブラシを用いてフィルターに付着したダスト等を掻き取る技術が記載されている。

(二)  右各公知技術は、いずれも、含塵気体から粉塵をフィルターによって除去する際、同フィルター表面に付着した粉塵を、同フィルターの気体流入側の表面にその先端が接触する位置にブラシを設置し、ブラシを回動、摺動させることなどにより、右粉塵を払い落とす方法に関するものである。

そして、右各公知技術には、右ブラシが粉塵を粗取りするフィルターとしての機能を有するとの記載はないものの、右ブラシはいずれもフィルター通過前の含塵気体にさらされているから、フィルターに捕集される以前にある程度の粉塵が右ブラシに付着する状況にあることが窺われ、とりわけ、前記(1)の公知技術においては、流入した気体の少なくとも半分程度が回転ブラシの毛間を通過して、一定程度の粉塵の粗取りが行われる状況にあると考えられる。

3(一)  さらに「フィルター」の一般的な意味についてみると、「濾過器、フィルター…異相を含む気体、液体が通過する隔壁の両側に圧力差を設けて気体、液体からその中の懸濁している異相(主に固相)の粒子を効果的に分離する装置の総称」(化学大辞典〔共立出版〕、甲一七)、「濾過器(filter)…濾過に用いられる器具を総称していう。フィルターという場合には、濾過に用いる隔膜状材を指すことが多い。」(化学大辞典〔東京化学同人〕、甲一八)、「気固系用ろ過器…じんあいを含む気体は、ろ布や特殊なろ紙製のバッグあるいは特別に調整した繊維層を通過させることにより、固体粒子を捕集する。」(世界科学大事典〔講談社〕、甲二一)、「濾過…多孔性の膜や層のろ材を通して、気体あるいは液体の流動相のみを通過させ、混在する固体粒子を分離する操作。」(大百科事典〔平凡社〕、甲二二)、「濾過…多孔質物質のフィルター(filter、濾材)を通過させることによって、液体または気体とその中に含まれている固体とを分離する操作。」(理化学大辞典〔岩波書店〕、甲二三)とそれぞれ定義されている。

(二)  右各記載によれば、ろ過器ないしフィルターとは、固体粒子を含む気体の場合でいえば、気体のみを通過させ、気体中に含まれる固体粒子を右膜ないし層によって捕集するものであって、ろ過の際には、気体をもれなく右ろ過器ないしフィルターを通過させ、気体の中から固体粒子を分離することが通常の方法であることが認められる。

4  そうすると、「含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター」について、本件第一発明の明細書には、概略図【図1】以外に具体的な解釈の指針となる記載はなく、前記2記載のとおり、可動ブラシが含塵気流中の粉塵を粗取りする旨の記載がないものの、流入気体の少なくとも半分がブラシの毛間を通過し、含塵気体がフィルターに到達する前に、ブラシによって一定量の粉塵が捕集(粗取り)される技術が公知であったのであることに加え、前記3記載のフィルターの一般的な意味内容を併せ考慮すると、本件第一発明において「可動ブラシからなる含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター2」は、実施例に示された可動ブラシのように、流入気体がブラシの毛間を通過する間にブラシの毛により大部分の粉塵が捕集される構造のものをいうと解すべきである。

5  本件各装置のブラシ5a、5bは、回転軸4aの上端から下端に至るまで一八〇度ひねりながら反対方向の二方向のみに植毛されている構造のものである。乙二、三によれば、本件各装置に含塵気流を流入させると、ブラシ5a、5bの全面にわたって粉塵が捕集され、一定の粗取り機能を有していることは認められるが、ブラシ5a、5bの構造が右のようなものであるから、含塵気流入り口2aから流入した気体のかなりの部分は、ブラシ5a、5bの毛間を通ることなく、ブラシ間の空間を抜けて円筒状フィルター7に導かれる構造となっているものといえる。

そうすると、本件各装置のブラシ5a、5bは、本件第一発明の請求項1の「可動ブラシからなる含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター2」に該当するとはいえず、本件各装置は構成要件B及びCaの「可動ブラシからなるフィルター2」との構成を充足しないものというべきである。

二  争点1(二)について

1(一)  本件第一発明の明細書の【発明の詳細な説明】の欄には、次の記載がある(乙一)。

(1) 【作用】の項

「本発明において、含塵気流は、まず、フィルター1に摺接しながら運動する可動ブラシ即ちフィルター2を通過する。この際に、フィルター2が気流中に含まれる粉塵を粗取りする。」(6欄四ないし七行)、

「本発明において、粉塵の粗取りとフィルター1に捕捉された粉塵を取り除きとは、可動ブラシからなるフィルター2によって同時に行われる。」(6欄一六ないし一八行)

(2) 【実施例】の項

「フィルター1内に流入した含塵気流は、モーター5によって回転駆動され、且つ回転ブラシからなるフィルター2のブラシ部分によって粉塵が粗取りされると共に、フィルター1によって完全にろ過された後、ろ過済気流出口4から排出される。」(6欄三三ないし三八行)

(3) 【発明の効果】の項

「可動ブラシからなるフィルターは、含塵気流からの粉塵の粗取りと、ろ過用フィルターに捕捉された粉塵の取除きとを同時に行うことができるので、構造がシンプルとなり、粉塵の除去を低コストで行うことができるのである。」(7欄八ないし一二行)

(二)  明細書の右各記載は、いずれも、可動ブラシによる粉塵の粗取りとフィルター1に捕捉された粉塵を取り除きとが、時間的な意味で同時に行われることを前提とした記載となっているといえる。

2  出願経過について

(一) 本件第一発明の公開特許公報(甲一)によれば、出願時の特許請求の範囲は、「含塵気流中から粉塵をろ過捕集する為の固定補強あるいは強化されたフィルター―Ⅰ(円柱状、円錐状、平面状等)及び前処理用のフィルターとフィルター―Ⅰ表面の粉塵を取り除く両方の機能を持つ可動式ブラシ等(回転運動及び直線運動)から成るフィルター―Ⅱを備える構造を持つ粉塵除去方法とその装置。尚、本方法とその装置は単数或いは複数を組み合わせて使用してもよい。」とされ、右フィルター―Ⅱが、①前処置用のフィルターとしての機能と②フィルター―Ⅰ表面の粉塵を取り除く機能とを併せ持つことが記載されるものの、同公報の記載中に、右二つの機能が時間的に同時に行われるか否かについて言及した部分はない。

(二) 原告【C】が本件第一発明について特許庁長官に対して提出した平成一〇年七月二八日付早期審査に関する事情説明書(甲一三)には、次の記載がある。

(1) 「(C)補正案の発明の説明」の項に、請求項1ないし5の発明について、「可動ブラシからなるフィルター2が、含塵気流中からの粉塵の粗取りとフィルター1に捕集された粉塵の取り除きとを同時に行う為、粉塵除去装置をシンプルな構造とすることができ、低コスト化が図れるという効果を奏する。」、「更に、可動ブラシからなるフィルター2が、ろ過用のフィルター1に捕集された粉塵を常時連続して取り除くこと、及び可動ブラシからなるフィルター2によって粉塵の取り除きをフィルター1の全面に対して行い得ることは、本願発明の趣旨に含まれるところであり、長期にわたって安定したろ過能力が得られるとの効果を奏すると共にフィルター1の表面積を最大限に有効活用できるとの効果をも奏するのである。」と記載されている。

(2) さらに、先行技術文献に示された技術について、

ア 「(D)先行技術文献(イ)(特開昭五三―三〇一九七号公報)との対比説明」の項に、同公報記載の技術について「ブラシによる粉塵の掻き落としは、フィルターに目詰まりが生じたり、あるいはフィルターの粉塵捕集効果が低下した際にまとめて行われるのであって、防塵マスクの使用中に常時連続して行われるのではない為、長期にわたって安定したろ過能力が得られない上、細かな粉塵を個人が吸引することになって、安全衛生上重大な問題を有するのである。」との問題点が、

イ 「(E)先行技術文献(ロ)(実開平三―二六三一七号公報)との対比説明」の項に、同公報記載の技術について「このスクレーパーによる粉塵等の剥離は、フィルター表面への粉塵等の付着が増大し、徐々に吸い込み風量が減少してきた時点で集塵機の吸引用ファンを一時停止して行うのであって、集塵機が稼働している間中、常時連続して行われるのではない為、長期にわたって安定したろ過能力が得られないのである。」との問題点が、

ウ 「(F)先行技術文献(ハ)(実開平三―三四八一九号公報)との対比説明」の項に、同公報記載の技術について「弾性爪部材によるフィルタ部材への衝撃エネルギーの付与、及びそれに伴う粉塵の払い落としは、フィルタ部材にある量以上の粉塵がたまったと判断された時点で、あるいは所定時間使用したときに適時行なわれ、また、その際には集塵機の運転を一時停止するものと推測され、よって、集塵機が稼働している間中、常時連続して行われるのではない為、長期にわたって安定したろ過能力が得られないのである。」との問題点が、

それぞれ指摘されている。

(3) そして、右各問題点の記載に続いて、前記(1)と同内容の本件第一発明の作用効果の記載がある。

3  右に見たような本件第一発明の明細書及び出願経過からすれば、本件第一発明は、フィルターに捕集された粉塵のブラシによる除去を間欠的に実施していた従来技術の欠点を補うため、可動ブラシによる含塵気流中からの粉塵の粗取りとフィルター1に捕集された粉塵の除去とを同時にかつ常時連続的に行うことを特徴としたものと解すべきであり、請求項1の構成要件Caの「共に」は、右二つの機能を併せ備えることを意味するとともに、時間的な意味で「同時に」という意味をも含むものというべきである。

4  甲一五によれば、被告らが製造、販売する粉塵除去装置は、二つのライン(Aライン、Bライン)に本件各装置を配設して交互に稼働させ、含塵気流中の粉塵を除去しているラインでは、回転ブラシ体が回転できないように設計されていること、したがって、Aラインの回転ブラシ体が回転して円筒状フィルターに堆積した粉塵を掻き取っている間は、Bラインが含塵気流の吸引を行い、Aラインは吸引を行わないこと、反対に、Bラインの回転ブラシ体が回転して円筒状フィルターに堆積した粉塵を掻き取っている間は、Aラインが含塵気流の吸引を行い、Bラインは吸引を行わないことが認められる。

そうすると、被告らの製造、販売する本件各装置は、可動ブラシによる含塵気流中からの粉塵の粗取りとフィルター1に捕集された粉塵の除去とは、時間的な意味で同時に行うことができない機構になっており、請求項1の構成要件Caの「共に」、すなわち右両機能を「同時に」行うという要件を充足しない。

三  以上によれば、本件各装置は、請求項1の構成要件B及びCaの「可動ブラシからなるフィルター2」との要件並びに構成要件Caの「共に」との要件をいずれも充足せず、したがって、請求項1に記載の粉塵除去装置であることを要件に含む請求項2も充足せず、本件第一発明の技術的範囲に属さないものというべきである。

四  争点2について

1  本件第二発明の明細書の【発明の詳細な説明】の欄には、次の記載がある(甲一一)。

(一) 【産業上の利用分野】の項

(1) 「本発明は、液分を含んだ気体から液分を分離回収する気液分離方法及び気液分離装置、粉塵発生源から発生する粉塵を捕獲、除去するための粉塵除去方法及びその装置に係り、特に簡単な構成で、気液分離処理を中断することなく濾材を浄化することができ、装置の小型化及びコンパクト化を図ることができる上、メンテナンスがすこぶる簡単になるようにした気液分離方法及び気液分離装置と、半導体素子製造工程において生成される〇・三μm程度以下の粉塵を長時間にわたって効率良く捕獲でき、しかも、装置の小型化及びコンパクト化が図れるようにした粉塵除去方法及びその装置に関する。」(5欄二ないし一三行)

(2) 「自己再生型の集塵装置を、例えば実際の半導体素子製造工程における粉塵除去装置をして試用したところ、予想よりも短時間内にフィルタ101の圧力損失が大きくなり、しかも、ブラシ102を回転させてもフィルタ101を再生できなくなることが判明した。」(6欄三六ないし四一行)

(3) 「そこで、更に鋭意検討を重ねた結果、半導体製造工程等の粉塵の発生源で使用される真空ポンプやオイルロータリーなどから漏れた油分、研磨や切断などに用いる水性或いは油性の工作液などの液体成分が微小滴状になって処理する気体の中に浮遊したり、ダクトの周面に付着した後、気流に押されたりしてフィルタ101まで運ばれてその表面に粉塵と共にベッタリ付着してフィルタ101の目詰まりの原因となり、更に、フィルタ101の周囲に浮遊する粉塵を吸着してフィルタ101の目詰まりを促進することが判明した。」(6欄四二行ないし7欄一行)

(4) 「しかも、このフィルタ101の表面に付着した油分や水分は気体の圧力や毛細管現象によってフィルタ101の目の中に浸透して貯留されるのであり、また、フィルタ101の表面に粉塵と共にベッタリ付着すると、ブラシ102に掃いたりした程度ではフィルタ101から除去できなくなり、その結果、再生不能な目詰まりを起こしていることが確認された。」(7欄二ないし八行)

(二) 【発明が解決しようとする課題】の項

「本発明は、上記技術的課題を解決し、簡単な構成である上、メンテナンスが簡単であり、しかも、気液分離処理と並行してフィルタの浄化が行えるようにした気液分離方法と、この気液分離方法を実施できる気液分離装置と、粉塵発生源、特に半導体素子製造工程から発生する〇・三μm以下の粉塵を長期間にわたって効率良く捕獲でき、しかも、装置の小型化及びコンパクト化を図れるようにした粉塵除去方法及びその装置とを提供することを目的とする。」(7欄三五ないし四三行)

(三) 【課題を解決するための手段】の項

(1) 請求項1の気液分離方法に関し、

「液分を含有する気体を液分離用回転ブラシの回転軸心方向の片側からその反対側に貫流させると、気体中の液分が液分離用回転ブラシの毛や既に毛に付着している液分に接触してその毛に付着することにより該液分離用回転ブラシの毛間に捕捉され、気流から分離される。」(8欄八ないし一三行)、

「この液分離用回転ブラシに捕捉された液分を該液分離用回転ブラシの回転に伴い生じる遠心力により該液分離用回転ブラシの周囲に設けた液分離用回転ブラシの周囲に設けた液分離室の内周面に運ぶ。」(8欄二一ないし二四行)、

「前記内周面に運ばれた液分をこの内周面に沿って落下させ、前記液分離室の底部に貯留する。」(8欄五〇行ないし9欄二行)

(2) 請求項2の気液分離装置に関し、

「前記本発明第1方法(請求項1の気液分離方法)を実施するために、前記気体を貫流させる円盤状或いは螺旋状に形成された液分離用回転ブラシと、この液分離用回転ブラシを駆動する駆動装置と、前記液分離用回転ブラシの周囲を覆う内周面及び該内周面に沿って流下した液分を貯留する底部を有する液分離室とを備える。」(9欄六ないし一二行)

(3) 請求項3ないし8の粉塵除去方法に関し、

「粉塵発生源からの粉塵を含んだ気体から上記本発明第1方法(請求項1の気液分離方法)により、液分、すなわち、油分及び水分を除去した後、該気体をフィルタに導いて該フィルタで濾過することにより粉塵を分離して回収するのである。」(10欄四六ないし五〇行)

(4) 請求項9ないし21の粉塵除去装置に関し、

「本発明第1装置(請求項2の気液分離装置)と本発明第1装置で油分及び水分を除去された前記気体中の粉塵をフィルタで濾過して除去する集塵装置とを備えるのである。」(12欄二九ないし三二行)

(四) 【作用】の項

(1) 「本発明第2方法(請求項3ないし8の粉塵除去方法)及び本発明第2装置(請求項9ないし21の粉塵除去装置)によれば、粉塵発生源かち粉塵を含有する気体が液分離装置に導入されて水分、油分などを分離した後に集塵装置に導入される。従って、集塵装置のフィルタの表面に水分、油分或いはこれらと共にこれらに吸着された粉塵が付着するおそれが無くなり、フィルタの目詰まりの進行が気体中の水分や油分によって促進されることが防止される。」(15欄二ないし九行)

(2) 「又、集塵装置のフィルタに水分や油分が浸透して残留することも無くなり、フィルタ内への水分や油分の残留による再生能力の低下ないし喪失が防止される。」(15欄一〇ないし一三行)

2  本件第二発明は、特許請求の範囲の記載によれば、「粉塵発生源から導入した粉塵を含有する気体中の油分及び水分を分離除去する『液分離装置』」と「該分離装置で油分及び水分を除去された前記気体中の粉塵をフィルタでろ過して除去する『集塵装置』」とを備える「粉塵除去装置」であり、かつ、前記「液分離装置」が「液分離用回転ブラシ」と、「駆動装置」と、「液分離用回転ブラシの周囲を覆う内周面及び該内周面に沿って流下した油分及び水分を貯留する底部を有する『液分離室』」とを備えるという構成になっている。しかるところ、明細書の前記記載によれば、本件第二発明は、従来、油分や水分の液体成分を含む含塵気流を粉塵除去装置に通すと、フィルターに液体成分が付着して目詰まりを起こすという問題点があったため、あらかじめ液分離用回転ブラシや液分離室等からなる「液分離装置」で液体成分を分離し、その後、液体成分を含まない気体のみを集塵装置のフィルターに導いてろ過することにより、右問題点を解決することを目的とするものであるから、本件第二発明において液分離装置を構成する液分離室は、液体成分を除去した気体中の粉塵をフィルターでろ過して除去する集塵装置とは別に設けられている必要があり(甲一一によれば、明細書の【発明の詳細な説明】の欄中の本件第二発明に係る粉塵除去装置の三種類の実施例でも、右のような構成の粉塵除去装置が示されていることが認められ、右の実施例の記載からもこのことが裏付けられる。)、また、液分離室は、液分離用回転ブラシを覆う内周面を有し、その内周面に沿って捕捉した液体成分が流下するような構成のものでなければならないと解される。

3  原告らの主張によれば、本件各装置は、回転軸4a、ブラシ5a、5bからなる回転ブラシ体4が、粉塵除去を行う(本件第一発明でいう「粉塵を粗取りする」)とともに、螺旋状に形成された液分離用回転ブラシとして液分離装置を構成しているとするものであるから、液分離装置と集塵装置とが区別されず、一体になったものであり、この点で、既に本件第二発明の構成とは異なり、技術思想を異にするものといわざるを得ない。原告らは、円筒状フィルター7とその下にあるボックス9をもって本件第二発明の「液分離室」に当たると主張する趣旨であると解されるが、仮に、右回転ブラシ体4が液体成分を捕捉する機能を有するとしても、その周囲に設けられた円筒状フィルター7が本件第二発明の「液分離室」の内周面に該当するということはできない。

したがって、本件各装置は、本件第二発明の「液分離室」を備えた「液分離装置」を有しておらず、本件第二発明の技術的範囲に属さないものというべきである。

五  争点3について

以上によれば、原告【C】又は原告クリーン・テクノロジー従業員による本件告知は、本件各装置の製造、販売行為が本件第一特許権及び本件第二特許権を侵害するものであるという点において、虚偽の事実というべきであり、かつ、原告エフテックの営業上の信用を害するものと認められるから、不正競争防止法二条一項一三号の不正競争行為に当たる。

六  よって、乙事件における原告【C】及び原告クリーン・テクノロジーの各請求はいずれも理由がないから棄却し、甲事件における被告エフテックの請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 阿多麻子 裁判官 前田郁勝)

<以下省略>

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